編入試験対策として受験生はAIとどうかかわるべきか? ――予備校の言い分との距離感

――独学の時代はどう変わるのか?
 深夜の机の上に、分厚い専門書が開かれている。ページの端には付箋がいくつも貼られているが、ある段落で手が止まる。書いてあることの意味が、どうしても腑に落ちない。
 ノートを閉じ、パソコンの画面を開く。
「この理論はどういう背景で生まれたのか」
 そう打ち込むと、すぐに説明が返ってくる。さらに疑問を重ねる。別の視点からの説明が示される。かつてなら、その疑問は次の授業まで持ち越されるか、あるいは他にも沢山の本を本棚から引っ張り出して読み耽ることになる。――だが今は違う。深夜の机の前でも、学習者は対話を続けることができる。
 対話型AIの登場は、独学という学び方に小さくない変化をもたらしつつある。そしてその影響は、大学編入試験の準備のような独学中心の受験において、特に大きく現れている。

 大学編入学試験の特徴は、一般入試に比べて情報が圧倒的に少ないことである。高校生の大学受験であれば、参考書や問題集、予備校講座など、学習のための環境が整っている。しかし編入試験の場合、大学ごとに試験科目や出題形式が異なるため、標準的な対策教材が存在しにくい。過去問が公開されていない大学も珍しくない。
 その結果、編入試験の受験生の多くは、限られた資料を手がかりに独学で準備を進めることになる。さらに、試験科目は単なる基礎知識の暗記では対応できないことが多い。例えば経済学、政治学、法学といった分野では、理論の背景や学問的な位置づけを理解することが求められる。つまり、個別の知識だけではなく、学問分野の構造そのものを把握する力が必要になるのである。
 しかし、独学でこの構造を理解するのは簡単ではない。大学の講義であれば、教師が分野の全体像を示しながら説明してくれる。独学の場合、その「地図」を自分で描かなければならない。

 その辺りの教師として予備校が、大学編入学の世界でも活動しているのを見受ける。中には、「最低限の勉強で合格させます」というメッセージの事業体も存在するようだ。そういった予備校に通いたがる受験生に言いたいのは、たとえ話が本当だとしても、「日頃から桁違いに読書量の多い者は相変わらず貴方にとって強敵ですよ」ということだ。
 そもそもAIの登場が本当に学問を効率化させたかは怪しい。同じ問題を一時間で解いた人と、十時間で解いた人とでは、後者のほうが勉強になっている。AIはもしかすると、人類の進化の背骨を砕いた可能性すらあるのだ。要は、苦心すべきだった、と。――ただし、編入試験対策としては、件の強敵を更なる強敵にすると思われる。
 そのような話を「根性論」と断罪して、予備校側の思想を信じても、――星は、実際に見つけた人が名付けるべきだ。理屈をこねくりまわして、惑星の裏側の地球上から観測できない位置にあるはずだと主張するだけの人が名付けるべきではない。――インターネットやSNSで活動する編入予備校の事業体を長年見てきたが、そんな皮肉がぴったりのセールスに明け暮れるものがほとんどだ。彼らは最適解を見つけたわけではなく、「あるのは間違いない」と過去問分析を根拠に示唆しているに過ぎない。

 この記事では、AIに出来ることと、出来ないことの境目を丁寧に解説する。
 AIはしばしば検索エンジンと比較されるが、学習の場面では少し違う役割を持つ。検索は既存の文章を提示するが、AIは質問に応じて説明を組み立てることができる。
 例えば、ある概念を学んでいる途中で

  • この理論はどのような背景で生まれたのか
  • 他の分野とどのように関係しているのか
  • 初学者はどの本から読むべきか

 といった疑問を、その場で投げかけることができる。
 従来の参考書は、著者が決めた順序に従って読み進めることを前提としている。しかし実際の学習では、理解は必ずしもその順序通りに進まない。途中でわからなくなったり、別の視点から説明を求めたくなったりすることもある。AIは、こうした学習の揺れに柔軟に対応することができる。いわば質問できる参考書として機能するのである。

 編入試験の学習では、受験分野の周辺領域にも視野を広げることが理解を深める場合が多い。
 例えば経済学を学んでいる学生が、経済史や公共政策の分野に触れることで理論の背景を理解しやすくなることがある。政治学の学生が社会学や法学の概念に触れることで、議論の枠組みが広がることもある。
 しかし未知の分野に入るとき、何から読めばよいのかが分からないことは少なくない。AIはこうした場合に、基本的な概念や代表的なテーマを紹介することができる。
その説明を手がかりに書籍を探せば、新しい分野への入口を見つけやすくなる。
 つまりAIは、知識を直接教えるというよりも、知識への道筋を示す案内役として機能していると言える。

 たとえば、「アメリカは基軸通貨を発行するからアメリカ国民は労働に忙殺されないのですか?」と質問をする。AIは、なぜそのような誤解に至ったのか経緯を推察したうえで、誤解を解く目的で解説をしてくれる。またそのような誤解に至っても仕方がない根拠まで探してきてくれる。ここでいう根拠は、むしろ主張する側が用意しなければいけないものだ。最後に「トリフィンのジレンマ」という概念の存在を教えてくれる。
 もっとも、AIは学問そのものの代替ではない。専門的な議論では説明が単純化されることもあり、誤った情報が含まれる可能性もある。そのため、AIの説明をそのまま受け入れるのではなく、書籍や論文を通じて確認する姿勢が重要になる。だから、トリフィンのジレンマについても自分で調べる必要はある。AIは結論を与える装置ではない。むしろ、思考の出発点を与える装置として使うべきだろう。

 編入試験の準備は、多くの場合孤独な作業である。大学の講義のように、体系的な説明を受ける機会は限られている。その意味で、AIの存在は独学の環境を少し変えた。疑問を抱いたときにすぐ質問できる環境は、学習のハードルを確実に下げている。
 最終的な理解は、やはり本を読み、自分で考えることによってしか得られない。しかし知識への入口を広げるという点で、AIはこれまでになかった学習ツールである。
編入試験という独特の受験においても、この新しい道具をどう使うかが、これからの学び方を左右する一つの要素になるのかもしれない。

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