金融論

金融の役割

金融取引

金融取引とは、①現在の購買力(要は現金)と、②将来時点で一定の条件に従って購買力を引き渡すという約束(金融商品、金融手段、金融資産)を、交換すること。

所得と支出の時間パターンの変更

現在の所得を将来に持ち越すこと、または、将来の所得を先取りして支出に充てること。これら二つは金融取引が利用可能な場合に実行できる。ここで時間パターンとは、「過去」、「現在」、「将来」の三つを想定する。所得の時間パターンと支出の時間パターンを乖離させて、安定した支出を図ることができれば、そのような余地のない場合よりも個々の経済主体の厚生水準は改善されるだろう、…という考え方でもって金融取引を有意義なものと考えることができる。

リスクエクスポージャの変更

各経済主体がどのようなリスクに直面しているかという状態(risk exposure)を変更する機会を、金融取引は与えることができる。疾病で所得減も保険に入っていれば収入が補填される、保険に入っているのならば健康なときに保険料を支払っている。保険料は現在の購買力から支払われ、保険金を支払うとは購買力を引き渡す約束そのものである。金融商品おける「一定の条件」に様々な事情を組み込むことで、多様なリスクの移転を図ることができる。

履行確保の必要性

金融商品は購買力の提供を約束するものであるが、一般的に約束の履行を確保するためには保有者側に一定の努力が必要である、この必要性を「事後の履行確保」と呼ぶ。

  • モニタリング:資金調達者の行動を継続的に監視する
  • コーポレート・ガバナンス(企業統治):効率的な経営が行われるように経営者を規律づける
不履行処理の重要性

不履行を引き起こした主体に責任をとらせ、ペナルティを与えることで、履行の動機付けとする。事前の情報獲得。金融取引に関わり合いになる経済主体について、情報を得て、評価することが必要になる。履行の確からしさを判断するために不可欠なことである。

価格情報の提供面での意義

市場で形成される資産価格は、(それ自体が)人びとの意思決定に重大な情報になる。ただし市場で形成される資産価格が市場参加者の持つ情報を反映しているかどうか、(そういった意味で適切な値付けがされているものかどうか)は、金融論の「情報効率性」というトピックスである。

円滑な金融取引のために

円滑な金融取引のために

円滑な金融取引を実現するためには、「事前の情報獲得」と「事後の履行確保」が重大だ。事前の情報獲得とは、当事者間のコミュニケーションを通じておこなわれたり、資金調達者が自ら開示するデータを通じておこなわれたりする。事後の履行確保とは、当事者間のコミュニケーションを通じておこなわれたり、明示的な契約とそれに対する法的保護の過程でおこなわれる。
オカネを欲しいひとが資金調達の際に債務(所定の時期がきたら約束通りに事を済ませなければならない)を負う。資金調達者は、信用される側ということ。この資金調達のさいにオカネを支出したひとは、同時に債権(債務を果たしてもらう権利)を保有する。債権は、クーポン(所定の時期がきたら約束通りにオカネを受け取ることができるという約束事)であれば、債券とも読まれる。ちなみに債券は「有価証券」だが、有価証券が債券とは限らない。

私的情報

相対取引(あいたい)による金融取引は、たとえば予てから取引関係にある銀行と銀行とが資金の貸し借りをするときは相対取引という金融取引の事例にあたるのだが、信用、将来性、評価や様々な情報が、私的情報として当事者間で蓄積されていくかもしれない。なぜなら、互いに時間コストやリスクを負って取引相手に辿り着くのだから、価値を認めて大切にする可能性が高い。一度出会った当事者らは長期継続的な取引関係に発展することもあるだろう。

情報生産活動

そもそも取引相手の信用、将来性、評価や様々な情報を、もう片方の経済主体が生み出していくためには、専門的な能力や知識が必要とされる。また、そうした情報生産活動は、自分自身が高く評価されたり、信用されたりするほど、有利になってくるから、規模の経済や範囲の経済が作用してくる見込みがある。

情報インフラ

市場型の金融取引をおこなうためには、たとえば競売的に価格をシグナルとした取引をおこなうためには、公開情報の形で特定の資金調達者の信用、将来性、評価や様々な情報を、得ることができるようにする必要があるだろう。そのためには、法的保護の環境も必要であるが、そもそもそのような情報伝達のインフラストラクチャーを必要とするものだ。

ビジネスを評価される立場からみた情報流通

ベンチャービジネスなど新奇性あるビジネスであれば、大勢から評価されることは有益であるし、何回も頻繁に評価されることは有益であるし、なにより経済全体で生き残るものを生存させる効率を生むことができる。新規創業企業などは、公開情報と共に市場型の金融取引(価格をシグナルとする競売など)が望ましいし、経済全体としてもそのようにして欲しいかもしれない。逆に、企業のビジネスに先例があったり、そもそも確立された産業、業界におけるビジネスであったりすれば、あまりに大勢から評価される必要も、繰り返し評価を更新する必要もないかもしれないから、長期継続的な相対取引が好ましいものになってくるだろう。

景気変動

長期継続的な相対取引であれば、企業が業績不振で信用の低下した状態に陥っても、理由が納得できたり、一時的なものだという見通しがあったりして、銀行は簡単には取引を中断しない可能性があります。これが市場型金融取引であると、上述のとおり価格をシグナルとしているものだから、悪くすれば雪崩をうって買手がつかなくなる可能性もある。市場型金融取引は景気変動に敏感なものになりやすい。

政府介入

長期継続的な相対取引は、しかしながら経済のとてつもないクライシスに対しては、銀行の連鎖倒産など現実味を帯びてくるものであるし、介入する政府としても少数の当事者らに働きかけることでも効果があることから、政府介入は都合によりおこなわれる可能性がある。しかしこれは、政府が限られた経済主体を買い支え、延命を図ることも可能になる、良くも悪くも、相対取引と政府介入は親和的なものとなってくるのである。

金融市場

証券

資金調達者とは、資金が不足しているものであり、有価証券(政府の国債、株式会社の株式、企業の社債など)を発行する。金融市場は証券市場とも呼ばれる。そのさい、発行市場とは証券の発行によって資金が移転する過程に対応し、流通市場とは既存の証券が投資家のあいだで売買される過程に対応する。
資金調達者がオカネを支出してくれる債権者を見つけるのが発行市場で、うまく出会えれば証券を発行し資金調達を執り行うのだが、やがてその債権者が証券を競売にかけるなどして別の債権者に売り捌くのが流通市場である。

市場とは

つまるところ市場とは、相当数の売手と買手がいて、彼らが互いに出会ってから取引(交換)をする「プレイス」であるから、学生のうちは「広い意味ではすべてが市場であり、市場型取引になるのではないでしょうか?(そう見えてきます)」という疑問をもつかもしれない。旧来の主流な経済学は、これまで取引費用理論(取引をするまでにかかる時間コストや交渉決裂のリスクなどをキチンと考える分野)の成果をカットしながら、「市場(マーケット)」というものを考えてきたから、旧来の用語として「市場」が用いられたら、つまり市場参加者が直面する取引費用を、分析する者にとって勘定の必要のないくらい微小であるとみなしながら、一旦端に置いておいて話を進めても差し支えない現実のプレイスが、真っ先に「市場(マーケット)」という概念に当てはまってくるものだとわかるでしょう。これは、公開情報とともに価格をシグナルとして資金提供者を探し出す機構とはまさにそれそのものだと気づくことができる。

デリバティブ

価格をシグナルとすることで、証券の値上がりや値下がりのリスクが、市場のなかで発生することもあります。そのリスクを移転するための新しい契約をデリバティブと呼ぶ。

流動性供給主体

証券会社など。実際の資金調達者と資金提供者の間にはいって、おもに仲介という形で、金融市場の円滑な取引を可能にしている経済主体。たとえば信用度の低い企業は自分で取引相手を見つけようとすると、もしかすると資金調達者は構わないかもしれないが、少なくとも資金提供者は多大なコストやリスク、あるいはその両方を負うことになると思われる。証券会社は、引き受けてくれるのである。

インフラストラクチャー

規制機関

規制機関とは、金融市場の公正性を維持し、利用者の信認を担保する機構のこと。行政によるものと、民間主体による自主規制機関とかがある。

情報提供機関

格付け機関や監査法人、上述した証券会社も情報提供機関としての側面を持っている。

流動性

価格をシグナルとするうえで、実際に公示された価格で取引しやすいとき、それは「流動性が高い」ということになる。流動性が低いと、たとえばいつまでたっても取引相手が見つからないからと妥協し、自分に不都合な価格を受け入れてしまうこともある。流動性が低い金融市場では、約定価格が価値を正しく反映させたものであるかどうか疑わしくなってくるのである。

証券取引所

売注文と買注文を一カ所に集中させることは、最も伝統的な解決方策である。

さらに証券取引所に仲介人をおく

NYSEのスペシャリスト制度など。証券取引所のなかで売注文と買注文がアンバランスになったときに、スペシャリストは、自分自身で適切だと考える価格を提示しつつも、うまく反対売買をして流動性を維持しようとする。

信用取引制度

売買したい投資家に証券会社が資金や株券を貸し付ける制度。金融市場で証券を買いたいがための資金提供を認めるということ。

情報効率性

理想として、金融市場とは新情報には瞬時に反応して「適切な価格」がシグナルされることを望むものだ。

効率市場仮説
  • 弱度の効率性:公開情報があてにならない。過去の証券の価格の動きで分析(c.f.テクニカル分析)するしか手立てがなく、しかし、たとえばランダムウォークする株価であれば将来価格の予測はまったくできないということになるから、あまり歯が立たない状態。
  • 準強度の効率性:公開情報が次の意味であてになる。公開情報に従うかぎり妥当であろう値付けが、実際になされていたり、あるいは近々なされるのだろうから、財務諸表分析などしても長いあいだ利鞘を稼いではいられない状態。
  • 強度の効率性:公開情報のみならずインサイダー情報など非公開情報までも価格に織り込まれているような状態。
アノマリー

金融市場でまことしやかにささやかれる迷信。大勢が信じることで上述した情報効率性の理想は、歪んでしまう。

金融の現代史

イノベーション

金融市場の断層的な改善。もともと証券取引所は、証券会社の自発的な集まりの組織化であった。流動性、価格公示機能の向上は、恒久的な問題意識である。ITを利用した技術による改善がわかりやすいが、取引費用(時間的コストや交渉決裂のリスク)の削減に、今日まで寄与してきたものは数多く存在する。1970年代にデリバティブ(価格変動をリスクとしたリスク移転)が台頭する。デリバティブは金融工学を駆使する証券会社の大きな収入源となった。

グローバル化

1977年には外国為替取引量が、世界全体の貿易額の約4倍(国際決済銀行(BIS))。1980年代後半には、深刻な貿易赤字を抱える米国で、機関投資家による対外証券投資が活発になっていった。

金融危機

世界政府が存在しないなかで、世界規模の金融市場に必要なインフラストラクチャーは、極端な話をすれば調達不能であり、世界規模の金融市場とは、どだい整備困難なものであるから、一定の脆弱性を今日においても抱えたままなのである。具体例としては、1997年アジア通貨危機がよく参照される。

日本のキャッチアップ

日本は、高度経済成長期のメインバンクシステム(相対型間接金融の時代)から市場型金融システムへ、1980年代後半には概ねキャッチアップ段階(明治維新以来の産業化と共に先進国欧米を手本とする金融の模倣的学習のこと。市場型金融システムへの移行は、金融システム改革と呼ばれることもあり、キャッチアップ段階としては仕上げに相当する。移行前のメインバンクシステムも、キャッチアップ段階としてはラストスパートなどと呼ばれることもある)を終了させたと言われている。株式市場は、バブル経済期には企業の資金調達の場として大いに活況した。

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